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『すばるイブニングコンサート 佐藤嘉春ピアノリサイタル』公演レポート   2015.05.19

 

 

 

 

第27回目のピアニストは東京音楽大学ピアノ演奏家コース2年の佐藤嘉春さんです。

佐藤さんのプログラムは、前半をベートーヴェン、後半をリストの作品で構成されました。まず、ベートーヴェンの作品は「ピアノソナタ第3番」です。第一楽章では、佐藤さんの可愛らしくチャーミングな音色が旋律を奏でていきます。やがて、はじけるように軽快に展開し、美しさと力強さに満ちた分散和音が印象的でした。第二楽章は祈りを込めるかのように、静かに音が紡がれてゆきます。バスのふくよかな響きに乗せて、高音部の語りかけるかのような優美なメロディーが、現実と夢の間を行き来するかのように、ゆったりと流れてゆきます。第三楽章ではスケルツォらしく、軽やかに生き生きとしたリズムが刻まれてゆきます。第四楽章では流れるような楽想の中において、音の粒が際立っていて、一音一音を最後までしっかりと演奏してくださいました。後半のリストの作品はまず「バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」とロ短調ミサ曲「十字架に付けられ」の通奏低音による変奏曲」。力強い序奏ではじまったかと思うと、次第にバッハの哀愁あふれるメロディーが現れ、リストの名人芸が随所に盛り込まれた、技巧的で激しい曲想に変わっていきます。激しい嵐によって岸壁に打ち付けられる波しぶきを描き出すかのように、無数の音のしぶきが会場に響き渡りました。そして終盤では、嵐の過ぎ去った後に太陽が差し込むかのように美しいコラールが現れ、雄大な音楽に昇華しました。そして最後は「バッハの名による幻想曲とフーガ」。冒頭の主題は、バッハのスペルBACHにそれぞれ音(シシ)をあてはめたもので、曲全体を通して形を変えながら繰り返し登場します。こちらも、華やかで技巧的な要素がちりばめられた作品で、音の跳躍、速いパッセージなどピアニストの技量の見せ所が満載です。佐藤さんの演奏は、この複雑な曲においても素晴らしい集中力で音を濁すことなく、クリアーな音楽を作り上げていました。

 佐藤さんは、可憐な音色と、優れた集中力でしっかりと構えた演奏できる懐の深さを兼ね備えていて、バランスのとれた繊細さと大胆さを表現できる素晴らしいピアニストです。

 
(担当職員T)
 

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